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仙台高等裁判所 昭和50年(ネ)72号 判決 1978年4月21日

控訴人・原告 株式会社戸田鉄工所 外一名

訴訟代理人 鈴木欽也

被控訴人・被告 小田島昭夫 外九名

訴訟代理人 岡宏 外一名

主文

一  原判決中控訴人らと被控訴人小向伊喜雄、同堀口重輔、同佐藤左一、同小野甚太郎、同山口金次郎、同川又正治との関係部分を次のとおり変更する。

(一)  被控訴人小向伊喜雄、同堀口重輔、同佐藤左一、同小野甚太郎、同山口金次郎、同川又正治は、連帯して、控訴人株式会社戸田鉄工所に対し三〇一万八、九〇四円及びこれに対する昭和四五年七月二四日から完済まで年五分の割合による金員を、控訴人藤本和夫に対し三八万円及びこれに対する昭和四五年七月二四日から完済まで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

(二)  控訴人らの右被控訴人らに対するその余の請求を棄却する。

二  控訴人らの被控訴人小田島昭夫、同小田島隆、同小田島光三郎、同小田島城二に対する本件控訴を棄却する。

三  訴訟費用中、控訴人らと被控訴人小向伊喜雄、同堀口重輔、同佐藤左一、同小野甚太郎、同山口金次郎、同川又正治との間に生じた部分は第一、二審とも右被控訴人らの連帯負担とし、控訴人らと被控訴人小田島昭夫、同小田島隆、同小田島光三郎、同小田島城二との間に生じた控訴費用は控訴人らの負担とする。

四  この判決は控訴人らの勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

一  控訴人ら代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。被控訴人小田島昭夫、同小田島隆、同小田島光三郎、同小田島城二、同小向伊喜雄、同堀口重輔、同佐藤左一、同小野甚太郎、同山口金次郎、同川又正治は、連帯して控訴人株式会社戸田鉄工所に対し三〇一万八、九〇四円及びうち二〇一万二、四九三円に対する昭和四二年六月六日から、うち一〇〇万六、四一一円に対する同四二年六月七日から各完済まで年六分の割合による金員を、控訴人藤本和夫に対し三八万円及びこれに対する昭和四二年五月三一日から完済まで年六分の割合による金員を、それぞれ支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人ら代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張並びに証拠関係は、次のように附加訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(控訴人ら)

農業協同組合は、信託事業共済事業など多額の金銭を取り扱う機構であるため、農業協同組合法(以下農協法と略称。)は、その第四節管理の項にその組織につき規定を設け、同法第三〇条では役員として理事と監事を必要機関とし、理事は五人以上、監事は二人以上置くものと定めている。そして同法第四一条は、理事には民法第五二条第二項、第五三条、第五四条を各準用しているので、理事は理事会の構成員であり、理事会の議事は理事の過半数を以つて決定され、理事は原則として組合の代表権を有し、理事の代表権に加えた制限は善意の第三者には対抗できないこととなつている。しかも理事には以上の規定のほか、さらに民法第六一条が準用されているので、理事は、必要があると認めた場合には何時でも臨時総会を招集することができる権限を有し、このことは組合の業務執行に対する監督機能を有する理事会の構成員たる理事の地位に一般的監視義務を負わせたものと解せられる。そこでもし当該理事にさような能力がないから責任がないというのであれば、農協法第三一条の二や農業協同組合定款(乙第一号証)第三六条はいずれも無意味な規定になるであろうし、能力がないことを口実にする理事を優遇することにもなり不当な結果を導くことになる。

(証拠関係)<省略>

理由

一  被控訴人小向伊喜雄、同堀口重輔、同佐藤左一、同小野甚太郎、同山口金次郎、同川又正治が本件当時原審被告川尻栄吉、同小笠原松雄、亡小田島閑二とともに浄法寺町農業協同組合(以下単に農協ともいう。)の理事の地位にあり、右小田島閑二が昭和四二年六月三〇日に死亡し、被控訴人小田島昭夫、同小田島隆、同小田島光三郎、同小田島城二がその相続人であることは、当事者間に争いがない。

二  当審における控訴人藤本和夫本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、控訴人らが日本ノーケン株式会社から同農協振出の約束手形三通の割引を依頼されてその譲渡を受けたので、これを株式会社徳陽相互銀行花巻支店及び株式会社東北銀行花巻支店で割引を得たうえ、控訴人株式会社戸田鉄工所において三〇一万八、九〇四円、同藤本和夫において三八万円をそれぞれ日本ノーケン株式会社に交付した事実が認められる。

しかして同農協では控訴人らからの右各約束手形金の支払請求に対し、右各約束手形が当時の同農協参事伊藤光雄により組合長の氏名、職印等を冒用して偽造されたものであるから同農協にはその支払義務はないと主張してこれを争つたのであるが、結局昭和四三年一二月四日盛岡地方裁判所で控訴人ら勝訴の判決があり、右判決は確定したこと、しかるに同農協には全く支払能力がなく、その所有にかかる土地、家屋にはいずれも岩手県信用農業協同組合連合会のため抵当権が設定されており、かつ什器、備品もすべて岩手県経済農業協同組合連合会の所有に帰していたほか所有動産は皆無という状態であるうえ、上部三団体と岩手県からも見切りをつけられ、農協事業はその後に創設された新浄法寺町農業協同組合に移行されていること、以上の各事実については当事者間に争いがないので、控訴人らは浄法寺町農協に対し債務名義を得たとはいうものの、結局その取立は不能であり、従つて控訴人らはそれぞれ右各手形金割引額と同額の損害を蒙つたものということができる。

三  そこで被控訴人らの責任について検討する。

(一)  控訴人らは、浄法寺町農協が昭和四五年四月頃、その債務につき理事が責任を負うことを条件に総会で解散の決議をし、行政庁の認可を受けた旨主張し、これに副う前掲藤本和夫の本人尋問の結果があるがにわかに措信できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

よつて右主張は採用しない。

(二)  控訴人らは、本件損害は当時同農協の理事であつた被控訴人らが、その職務を行うにつき、重大な過失があつたことに帰因するのであるから、被控訴人らは控訴人らに対し、連帯してその損害を賠償すべき責任がある旨主張する。

そこで按ずるに、成立に争いのない乙第二号証ないし第四号証、原審における原審被告川尻栄吉、被控訴人堀口重輔、同小向伊喜雄、同小野甚太郎、同佐藤左一、同山口金次郎、同川又正治の各本人尋問の結果によれば、浄法寺町農業協同組合は、昭和二九年に設立された浄法寺農業協同組合と御山口農業協同組合、大峯農業協同組合とが合併したものであるが、経営不振のため昭和三四年一二月、一、〇〇〇万円にのぼる累積赤字を抱えて岩手県から再建整備組合の指定を受け、同三五年四月に至りようやく組合事業を再開したこと、そして当初は原審被告岩手県農業協同組合中央会から派遣された事務職員によつて組合事務の処理がなされていたが、昭和四〇年五月岩手県共済連の高橋豊八から斡旋された伊藤光雄が浄法寺町農協の参事に選任されたこと、被控訴人らは、年数回の理事会に出席するだけで同農協の業務は常勤の専務理事である原審被告川尻栄吉に委ね、同被告もまた参事の伊藤光雄を信頼するの余りその主要業務を同人に委ねていたこと、伊藤参事は同農協の業務が自己に委ねられていることを幸いに、昭和四一年九月頃から同四二年四月頃にかけて川村和示や日本ノーケン株式会社に対し同農協振出名義の融通手形を乱発したこと、本件約束手形はその一部であつて、結局これがため同農協には約七、四〇〇万円に達する欠損が生じてしまい、ついに再建不能の事態に追い込まれるに至つたこと、一方被控訴人ら理事達は、その一部の者が昭和四二年五月半ば頃かような事実を耳にした程度で、その後同年六月六日に招集された緊急理事会の席上、原審被告川尻栄吉から右事件の発表があるまでは、全く右事実を察知することができなかつたこと、以上の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで農業協同組合の参事には商人の支配人と同様組合業務の遂行に関し、広汎な権限を与えられている(農業協同組合法(以下農協法と略称。)第四二条第三項、商法第三八条。)ことに鑑み法はその選任、解任を理事の過半数で決することにしている(農協法第四二条第二項。)のである。そして農協の理事は、組合に対しいわゆる忠実義務(同法第三一条の二第一項。)を負つているうえ、右のとおり参事の任免権を有していることに照らせば、理事には直接もしくは理事会を通じて間接的に参事の業務遂行を監視すべき義務が課せられているものと解するのが相当である。

しかるに被控訴人小向伊喜雄、同堀口重輔、同佐藤左一、同小野甚太郎、同山口金次郎、同川又正治(亡小田島閑二については後記のとおり。)は、当時同農協の理事の地位にありながら毎年数回招集される理事会に出席するだけで、同農協の業務は専務理事である原審被告川尻栄吉と伊藤参事に任せきりにして右監視義務を尽さず、これがため伊藤参事の手形乱発を阻止することができなかつたことは前記のとおりであるから、右被控訴人らにその職務を行うにつき重大な過失があつたものというべく、従つて右被控訴人らは農協法第三一条の二第三項により控訴人らに対し連帯して前記損害を賠償すべき責任を免れない。

被控訴人らは、自分達は組合事務や経理に暗く、伊藤参事の業務遂行を監視、監督する能力に欠けていた旨主張するが、右能力の不足は前記被控訴人らの責任を否定する事由とはならない。けだし、たとい右被控訴人らがさような能力に不足するところがあつたにせよ、自らの職責を自覚し、それなりに組合業務に関心を持ち積極的にその衝にあたる者の執務状況を見守る姿勢を示していたならば、本件のような手形の乱発という事態を招かずに済んだことと思われるからである。(単に右能力不足を理由に理事の損害賠償責任を否定することが許されるならば、農協法の右規定は空文に等しいものとなるであろう。)

次に亡小田島閑二の責任について検討する。原審における被控訴人小田島昭夫の本人尋問の結果によれば、亡小田島閑二は昭和三五年以来農協の理事で、組合長(定款第三一条)を勤めていたが、本件手形振出前の昭和四〇年一一月二八日、脳疾患で倒れ、言語障害のため再起不能のまま入院生活を送り、ついに同四二年六月三〇日死亡するに至り、この間全く執務不能の状態であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右認定の事実によれば、亡閑二は、その責によらずして前記監視義務を尽すことができなかつたのであるから、同人に対しては同法による損害賠償責任を問うことはできないものというべく、従つてその相続人である被控訴人小田島昭夫、同小田島隆、同小田島光三郎、同小田島城二は控訴人らに対し前記損害を賠償すべき義務はない。

四  よつて控訴人らの本訴請求は、被控訴人小向伊喜雄、同堀口重輔、同佐藤左一、同小野甚太郎、同山口金次郎、同川又正治に対し、控訴人株式会社戸田鉄工所が三〇一万八、九〇四円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四五年七月二四日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、(本件責任は特殊な不法行為責任と解されるから遅延損害金の割合は民事法定利率によるべく、またその発生時期は不法行為の時点すなわち損害発生時とすべきであるが、本件では証拠上これを確定することができないから、これを請求の時点である訴状送達の日の翌日からとするのが相当である。)控訴人藤本和夫が三八万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四五年七月二四日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各連帯支払を求める限度で理由があるからこれを認容するが、その余の部分並びに被控訴人小田島昭夫、同小田島隆、同小田島光三郎、同小田島城二に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきものであるところ、原判決中これと同旨の被控訴人小田島昭夫、同小田島隆、同小田島光三郎、同小田島城二に関する部分は相当であるから同被控訴人らに対する本件控訴を棄却すべきであるが、これとその趣旨を異にする被控訴人小向伊喜雄、同堀口重輔、同佐藤左一、同小野甚太郎、同山口金次郎、同川又正治に関する部分は一部不当であるから、これを主文のとおり変更し、民事訴訟法第三八四条、第三八六条、第九六条、第九五条、第九三条、第九二条、第八九条、第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤幸太郎 裁判官 武田平次郎 裁判官 武藤冬士巳)

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